光のもとでⅠ
 最後に伝えるべき内容を頭でまとめ、それを言うために一瞬だけ翠から目を逸らす。
 きちんと目を見て話すためには一呼吸おく必要があった。
 視線を戻し、翠の正面情報から見据える。
 今、俺はどんな顔をしているだろう。
 ポーカーフェイスなどとっくに崩れている。
 せめて、泣きそうな顔ではないことを願うのみ。
「今からでも遅くないと思う。翠はもう一度選択することができる。今度はよく考えて選択するんだな。……これ以上、俺たちをぬか喜びさせてくれるな」
 最後の一言は言うべきじゃなかった。
 こんなの、八つ当たり以外の何ものでもない。
 自分を守るためだけに発した言葉。
「責任転嫁」しているのは翠ではなく俺だ――。
 携帯を翠の膝に落とし、俺は逃げるように走り出した。
 文字通り、逃げるために――。
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