光のもとでⅠ
 桜香苑を突っ切り、余裕のない頭で考える。
 家には帰れない。
 こんな無様な格好で、みっともない顔で帰れるわけがない。
 行く宛てがなかった。
 脆い自分をさらけ出せる場所など、どこにも作ってこなかった。
 そんな場所、今までは必要なかったから。
 校舎に近づけば人と出くわす可能性がある。
 ずぶ濡れの今、人目を引くことは避けられない。
 どこか人目につかない場所はないか――。
 はじき出された答えはひとつ、「地下道」だった。
 図書棟の一階から地下道に下りよう……。
 事前連絡なしに地下道へ下りれば警備システムに引っかかる。
 この際、誰かが駆けつけるそのときまででもかまわなかった。
 頭を整理するため、気持ちを整理するため、ほんの少しでいいからひとりになる時間が欲しかった。
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