光のもとでⅠ
「なら、どうする?」
『……泳がせる。徹底的に』
 ぶれのない声が返ってきた。

 通話を切ると、目の前にはハーブティーが置かれた。
 蔵元がタイミングを見計らって用意してくれたもの。
「お疲れ様です。……っていうか、会長の思うつぼじゃないですか」
「ソウデスネ……」
 魂が半分抜けてしまった気分だ。
 静かな部屋では携帯の会話など筒抜けになる。
 こと、夜という時間はとくに静かに感じるものだ。
 別に訊かれて困る相手じゃないからこそここで話していたわけだけど……。
 俺は淹れたての熱いカップを翠葉ちゃんがするみたいに両手で包んでみた。
 さすがに、彼女の手とカップの比率とはずいぶん異なる。
 俺がやってもかわいくもなんともない。
 ただ、カップが手の内にあるだけ。
 熱を一際強く感じるのみ。
 立ち上る湯気と一緒に香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
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