光のもとでⅠ
 彼女は俺といる十五分を懸念していたわけではなく、俺に時間があるのかを考えてくれていた。
 そんなの、大丈夫に決まってる。
 ほかの何を後回しにしても君との時間を優先するよ。
「なんだったら三十分待ってもいいよ、って蒼樹に伝えて?」
 彼女はびっくりした顔をして携帯に向き直った。
「あのね、秋斗さん、時間大丈夫みたい。だからカフェで待ってるね」
 そう口にしてから数秒後、彼女は通話を切った。

 カフェに入ると顔馴染みの店員に「いらっしゃいませ」と声をかけられた。
 この店員とは一年半ほど前から顔なじみ。
 蒼樹が当時の彼女と修羅場った直後、テーブルや周りの床を即座に片付けてくれた人間だった。
 そんなことを思い出していると、思わぬ偶然が降って湧く。
 店員に案内されたのはそのときに座っていたテーブルだった。
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