光のもとでⅠ
「今ね、音楽聴かせているの」
「え?」
「この子、言葉が聞こえなくなっても音楽だけはちゃんと聴こえるのよ」
 碧さんがクスクスと笑う。
「じゃ、もしかして……今、俺たちが話してるのって聞こえてない?」
「そうね。聞こえてないかもしれないわ。今は全部の感覚を遮断したいみたいだから」
 碧さんは少し悲しそうな顔でリィの方を向いた。
 薄暗い部屋の中だからそう見えたのかもしれない。
 でも、ちゃんと母親の顔だったと思う。
「私、調べたいものがあるから、ここを唯に任せてもいいかしら?」
 こんなときに調べもの?
 たぶん、まんまそういう目を向けたんだと思う。
 碧さんはクスリと笑って俺の額をデコピンした。
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