光のもとでⅠ
 そのくらい、翠が俺の近くにいた。
「それなら、私が持って下ります」
『そう? じゃ、お願い』
 通話を切ると、
「久先輩のかばんってどれ?」
「ダイニングの脇に置いてある」
 翠は首をめぐらせダイニングに目をやる。
 廊下近くにあるかばんを確認すると、次の行動へ移した。
 俺の方を向き、足を崩して座っていた翠は、ラグに膝をついてゆっくりと立ち上がろうとしていた。
 あぁ、このまま立ったら翠はここからいなくなる。
 ほぼ反射的に手を伸ばし、細い手首を捕らえる。
 まだ、ここにいてほしくて。
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