光のもとでⅠ
「翠葉ちゃんは彼から女性遍歴を聞いたそうだけど、すぐに身体の関係になるような、そんな付き合いしか彼はしてきていないの。もちろん、彼は彼なりに翠葉ちゃんが相手であることを考慮したうえで行動していたつもりだけど、彼の目算は誤りだった。翠葉ちゃんにはもっと準備期間が必要だったの。それが恐怖感の正体よ」
 恐怖感の正体は――準備、期間……。
 ポロリ、とわけもわからずに涙が零れる。
 前に座る先生の手が伸びてきて、頭をポンポンと叩かれた。
「少しずつ勉強しましょう。大丈夫だから――いつかは怖くないと思える日がくるから。自分から好きな人を求めるような日が、そんなときがくるから。今はどういうものなのか、気持ちの変化を学びましょう」
 先生にお茶を飲むように促され、私はコクコクと何口もラベンダーティーを飲み下した。
 泣くな、動揺するな、冷静になれ――。
 暗示をかけるように、または叱咤するように自分を諭した。
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