光のもとでⅠ
 顔を上げると、カウンターから楓先生が身を乗り出していた。そして、
「おいで」
 言いながらカウンター内に回ってくる。
「夕飯の準備整ったから、おいで」
 怯えている動物に差し伸べるように手を向けられた。
 私に目線を合わせると、楓先生は「ごめんね」と謝る。
「うちのゴタゴタに巻き込んでばかりで」
 違うっ、そうじゃないっ。それがつらいわけじゃないっ。
 私はただ――ただ、自分の気持ちをどうにもできなくて逃げているだけで……。
 誰かに謝られるのは絶対に違う。
 ――なら、どうしなくちゃいけない?
 どうしなくちゃいけないの、翠葉……。
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