光のもとでⅠ
「はい……ごめんなさい。わかってるんですけど、でも……先生のプライベートはあまり知らなかったから」
「……そうだね。出逢ってからずっと、俺は医者で翠葉ちゃんは患者だったもんね。――その枠、飛び越せるかな?」
 顔を覗き込まれて尋ね返す。
「飛び越す、ですか?」
「そう。俺はこの先もずっと医者だし、翠葉ちゃんは病院にかかってる限りは患者さんだ。でも……弟のお兄さん、くらいには昇格できないかな、と思って」
 ちょっとした衝撃があった。
 そうだった。湊先生はツカサのお姉さんだし、楓先生はツカサのお兄さんなのだ。
 当たり前なのだけど、当たり前すぎて、それと同じくらいに先生であることが当たり前すぎて、ちゃんとリンクしていなかったかもしれない。
「たとえば、秋斗は蒼樹くんの先輩だけど、俺も一応そうなんだよ?」
 だめ押しのように言われて私は笑う。
「そうでしたね、そうでした」
 ふたりクスクスと笑いながらエレベーターで十階に上がった。
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