光のもとでⅠ
 十階は相変わらず物々しいセキュリティが敷かれている。
 指紋認証、声紋認証、網膜認証、重量センサー。それらをひとつひとつ解除して扉を開けていく。エレベーターホールとフロアを仕切る四枚の扉を抜けたところにある詰め所。そこには黒いスーツを着た男の人がふたりいた。
 過去二回ここへ来たことがあるけれど、詰め所に人がいるのは初めて見た。
 足裏がふかふかと感じる絨毯の上を歩きナースセンターの前まで来ると、私の知らない看護師さんがいた。
「何か変わりありましたか?」
 楓先生の問いかけに、看護師さんは「いいえ」 と短く答える。
「そうですか」
 楓先生は病室のドアの前に立つと、
「ちょっと離れててね」
 と苦笑した。
< 8,509 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop