光のもとでⅠ
 こういうとき、楓先生は私を動かすよりも自分が動こうとする。
 私を帰したくないと思えばなおさらそういう行動に出るだろう。
「何を忘れたの?」
 先生はものの形状を訊いてきた。
「このくらいの小さな緑色のポーチです」
 先生、嘘ついてごめんなさい。でも、あとで謝るから許してください……。
「わかった、ちょっと待っててね? っていうか、果歩っ、間違っても物を投げたりするなよっ?」
「だからっ。私、そこまでひどい人間じゃないってばっ」
「さっきコップ投げた人間がよく言う」
「うるっさいっ。とっとと行けばっ!?」
 何度聞いても呆気に取られる。
 彼女さんと話すときの楓先生は、私の知る楓先生とは全くの別人だった。
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