光のもとでⅠ
 楓先生が病室を出ると一気に部屋がしんとした。
 彼女さんは病室のドアが閉まるとシャーペンを手に取り、すごい勢いでルーズリーフに文字を書き殴っていく。
 身の置き所に困っていた私は、なんとなしに手に持っていたマグカップの匂いを嗅いだ。
 リンゴジュース……。
 冷蔵庫にはリンゴジュースが入っていると言っていた。
 つまり、果歩さんはそれなら飲めるのだろう。
 静かに席を立ち、室内の簡易キッチンに向う。カップを水洗いして、冷蔵庫から飲みかけのリンゴジュースを取り出し注いだ。
 そっとサイドテーブルに近づき、音を立てないようにカップを置く。
 とても真剣にシャーペンを走らせていたから、私は声をかけずに病室を出ようとした。
「ちょっと……」
 声をかけられ振り返る。
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