光のもとでⅠ
 涙をしっかり拭き取り一度目を閉じた。自分を落ち着かせるために、必要以上に出てきた水分すべてを拭き取るために。
 次に、止めてしまった呼吸を再開させる。
 何度か息を深く吸い込み吐き出す。そんな動作を繰り返した。
「……楓先生の言うとおりなんです。先日、性教育を受けて命や生きること、成長すること、その先に老いがあり死があることを学んで……。たぶん今、『命』というものに過敏になっているんだと思います」
 ゆっくりと話した。
 それだけが理由じゃなかったけど――本当は、「当たり障りのないもの」ではないものに触れたから涙が出た。
 でも、そうは言えなかった。
「そっかそっか……。ちょっと、楓さんっ!?」
 果歩さんはグリン、と楓先生に顔を向け怒りだす。
「なんでこんなとこ連れてたのよっ」
「ふたりを会わせたかったから?」
 楓先生はサラリと答えた。
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