光のもとでⅠ
「もしかして……入院、延びました?」
「そうなのっ。本当は今日退院したかったのにっ」
 先日来たときにも果歩さんは、金曜日には退院する、と息巻いていた。それは、退院したい、という果歩さんの意向であり願望であり、退院できる望みがあったかどうかはまた別の問題なのだけど……。
 その願望がお預けになったうえに、レポートの提出も人任せ。しかも、たぶんだけど……一番任せたくない人に任せることになってしまった、という状況。
 負けん気が強く、とかく自分が動きたいタイプの果歩さんにとっては嫌なことオンパレードで気持ちのおさまりがつかないようだった。
 何せ、今も「絶対安静」という言葉にベッドの上へ縛り付けられているわけで――。
「とりあえず、リンゴジュース入れてきます」
「ありがとー」
 言葉のすべてに濁点がついてるような声で言われる。
 果歩さんは感情をすべて表に出す人で、自分を飾る、ということをしない。
 ふとしたとき、とても「お姉さん」になるのに、いつもはこんなふう。
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