光のもとでⅠ
 もう、戻すものなどないのに、それでも胃の痙攣は止まらなかった。
 あまりにもつらくて、ゴロリ、とその場に身を横たえる。
 気づいたときには、身体にスーツの上着がかけられていた。
「汚れちゃ……」
 自分でそれをどうにかできればよかったけれど、私の手はすでに汚れていて、それを避ける術はない。
「かまいません。今はご自身のことをお考えください」
 警備員さんはコンシェルジュの人たちと同じような言葉遣いで接してくれた。
 ピッピッピッ、と音がして、
「十階、看護部長藤原です――御園生さんがいらしてるのですが、御園生さんの嘔吐が止まりません。――えぇ、果歩さんではなく御園生さんです。ストレッチャーで下に下ろしますので、手の空いてるドクターに……え? あ、お願いできますか? ――ではお待ちしております」
 ピッ、と再度音がし、今度はこちらに向って声が降ってきた。
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