光のもとでⅠ
「今、涼先生がいらしてくださるから、もう少し我慢しましょうね。ただ、場所だけは移動しましょう」
 確かに、ずっと果歩さんの病室の前を塞いでいるわけにはいかないだろう。けれど、もう身体を起こせそうにはない。こみ上げる吐き気に対応するのでいっぱいいっぱい。
「隣に運んでもらえるかしら?」
 小枝子さんが言うと、警備員さんの手が右肩に触れる。
 ゾクリ――吐き気とは違う感覚。……嫌悪感。
「やっ――」
 怖い、やだっ。
 丸まるようにして横になっていた身体をさらに縮こめる。こんなときだって吐き気は止んでくれない。
 知らない警備員さんが何か口にしようとしてやめる。そして手は遠ざかっていった。
 謝らなくては――。でも、もう、何も話せそうにはなかった。見事に息が上がっていて、あぁ、これはコントロールがもうできないかも、と感じる。
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