光のもとでⅠ
 すると、
「ちゃんと息を吐ききりましょう。吐いて……吸って……吐いて……吸って……」
 小枝子さんは優しく肩を叩きながら過呼吸のオーソドックスな対応を始めた。
「大丈夫よ。先生、すぐにいらしてくださるから。手も顔も、あとできれいに拭こうね」
 言いながら、吸って吐いて……と繰り返し声をかけてくれた。時折顔に張り付いた髪を払い、背をさすりながら。
 あとどのくらいこの苦しいのを繰り返せばいいのか……。
 そう思ったとき――涙が滲む向こうにツカサがいた。
 ツカサがいつもよりも丁寧な口調で、
「大丈夫、ではなさそうですね」
 クスリと笑う。険を含まない笑顔。
 私は思わず、「助けて」と手を伸ばす。手はしっかりと握られた。
「えぇ、助けますよ。医者ですから」
 その言葉を最後に意識を失った。
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