光のもとでⅠ
「セミオーダーなのにスーツの仕上がりが六日後って早いよね? こういうのって一ヶ月くらいかかるものなんじゃないの?」
 帰りの車の中で唯兄が引き換え券を見ながら言う。
「なんか父さんが静さんに無理言ったらしいよ」
 蒼兄が唯兄に情報提供。
「オーナーに無理言うって……それ人間業じゃないでしょ」
「今回は特別ー」
 お父さんの中途半端な回答に唯兄が首を傾げる。
「唯たちはもっと早く買い物に来れたわけだけど、父さんが帰ってくるまで待っててもらったんだ」
「どうして?」
 私が訊くと、
「だって家族みんなで買い物なんてそうそうないだろ?」
 お父さんは嬉しそうに答える。
「でも、父さんを待ってもらうとどうやっても十二月に入っちゃうんだよ。だから、紅葉祭で帰ってきたときに、どうにかならんかなー、って静に話してたんだ。そしたら最速の仕立て期間を提供してくれたんだな。やっぱ持つべきものは友でしょ!」
 自慢げに話すお父さんはこれ以上ないくらいご機嫌だった。
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