光のもとでⅠ
 階段を下りきったところで桃華さんが足を止めた。桃華さんが視線を落とすところを初めて見たかもしれない。いつも胸を張って真っ直ぐ前を見据えている人が、足元に視線を落としていた。
「翠葉に謝られると、これ以上入ってこないでって言われてる気がするの」
 顔を上げた桃華さんは、いつものような余裕ある表情ではなくて、眉根をきゅっと中央に寄せていた。
「これ以上踏み込んでこないでって、そう言われてる気がするのよ。だから、謝らないで……」
 怒っているようにも苛立っているようにも見える。それから悔しそうにも……。それは今朝の佐野くんの表情と酷似していた。
「大晦日、絶対来なさいよ? 風邪ひいて来れないとか許さないんだから……。絶対来なさいよっ」
 最後は、その場にいた人たちの視線を集めるほどの声で言われた。そして、すぐに走りだし人ごみの中へ消えてしまった。
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