光のもとでⅠ

29

 手から、粒子細かな砂が零れていく。
 音も立てず、指と指の間をすり抜けて。留めようと手に力をこめても着実に。
 サラサラサラサラ――すり抜け零れ、失われていく。
 まるで砂時計を見ているようだった。無常にも時は流れ、砂は落ちていく。
 今、自分がどんな感情を抱えているのか……そんなこともわからない。
 砂は落ちゆくのに、感情だけは行き場なく留まったまま。
 大切なものを失うときの虚無感とはこういう感じなのだろうか……。
 いずれにせよ、感情が複雑すぎて言葉への形容がしがたい。
 不思議と涙は零れなかった。
 涙とはどんなときに流れるものだっただろうか――。
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