光のもとでⅠ
「そうですか?」
 こちらを気遣うように声をかけられ視線を合わせると、用務員さんは目尻を下げ、
「普段ここには小さなお客人しか来ないものですから――児童にお茶を出すときは火傷をしないように少しぬるいお茶を出すようにしているんです。なのでいつもの癖で……」
 と、頭を掻く。
「……小さい子が零しても火傷しないように? 飲みやすいようにぬるくして……あるんですか?」
「はい……」
 用務員さんはどこか恥ずかしそうに、そして嬉しそうににこりと笑った。
 言われてみれば、カップ自体も小ぶりで小学生の手にちょうどいい大きさだった。
 用務員室の中を見回すと、ところどころに小さな子が怪我をしないように……という工夫がしてある。工具などは手の届かない場所へ片付けてあるし、椅子やテーブルの角は全てやすりで削られ丸みを帯びている。
 ここは子どものことを考えて作られた空間だったのだ。
 待たせてしまったわけではないことを知り、用務員さんの優しさに触れたら縮こまった胃が緩んだ気がした。
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