光のもとでⅠ
「なんて言おう……」
「なんでもない」が通用する家族ではない。「冷えただけ」という言葉は通用するだろうか。
 手袋をした手を鳩尾のあたりに添える。
 お腹なのか胃なのかよくわからない。腹部全体が痛い気もする。でも際立って痛いのは右側のような気がしなくもない。
 冷えたのだとしたら、このあと戻すことになりそうだ。でも、戻したら問答無用で胃カメラを飲まなくてはいけない。
「どうしよう……」
 お風呂、かな? できる限り身体をあたためたら回避できるだろうか。
 あれこれ悩む間はない。エレベーターはあっという間に九階に着いてしまった。
 玄関のドアを開けると唯兄とお母さんに迎えられる。
「ただいま」を言う前に顔色の悪さを指摘された。
「えと、まずはただいま」
「はい、おかえり。で?」
 すかさず唯兄に話をもとに戻される。
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