光のもとでⅠ
 人前でどんなふうに振舞ったらいいのかがわからない。どんな自分が「自然」だったのかが思い出せない。
 どうしたら人を傷つけないでいられるのか、どうしたらずるくない人になれるのか。どうしたら何もかもがもとどおりになるのか。
 そもそも、「もとどおり」と私が望む形はどういうものだったのか――。
 完全に自分を見失っている状況で、人と言葉や視線を交わすことが怖かった。

 正面玄関を出ると冷たい風に頬を叩かれ、髪は縦横無尽に舞い上がる。
 日中よりも風が強い。空はどんよりと曇り、今にも雨が降りだしそう。
「朝はいい天気だったのに……」
 蒼兄の運転する車が私よりも数メートル先で停車した。
 足早に駆け寄り、内側から開けられた助手席にすばやく乗り込む。
 車の中は程よくあたたまっていて、冷たくなった頬をふわりと優しく包まれた気がした。
「おかえり」
「ただいま。……空、真っ暗だね」
 フロントウィンドから見える空を見ながら言う。
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