光のもとでⅠ
 秋斗さんは拓斗くんが喜ぶような話題を振り、美波さんとお母さんの会話にも難なく混じる。
 ランチが終るとサッカーへ行く拓斗くんを見送り、四人でエレベーターに乗った。
 ランチの続きのような歓談をしたまま九階に着き、エレベーターを降りるときには肩を優しく叩かれた。
「宿題でわからないところがあったら教えるよ?」
 秋斗さんらしい甘い笑顔のまま扉を閉じる。
 それは、出逢った頃によく見た笑顔だった。

 ネイルにはいろんな種類があるらしいけど、私とお母さんが選んだものは揮発性が高く、塗ったらすぐに乾くタイプのもの。
 お母さんは日頃から美波さんの練習台になっていたこともあり、ハンドケアをする必要はなかった。
 よって、私は初めてのハンドケアを受けネイルに挑むことになった。
 私には桜貝色のマニキュア、お母さんにはパールの入った優しい藤色のマニキュア。
 どちらも派手ではない。けれど、手先がとても上品に見える色だった。
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