光のもとでⅠ
「うん、いいね。歩幅が広がった。残るは視線かな? 不安だからといって視線を足元に落とさないように。ここはホテルの中だから足元に障害物はないよ」
「でも……」
「騙されたと思って十メートルくらい先、回廊のカーブのあたりを見て歩いてごらん」
 ほら、と促されて恐る恐る視線を上げた。
 数歩歩いて、「あれ?」と思う。
 不安だし怖いことは怖い。けれどもバランスが崩れることはなかった。
 頼りにしていた右手からも自然と力が抜ける。
「どう? 騙された気分は」
 笑いを含む声で尋ねられた。
「あの……すみませんでした」
「ん?」
「……騙されてませんでした」
 言うと笑われる。
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