光のもとでⅠ
 カタログを閉じ、
「すみません……。お任せしてもいいですか?」
 美容師さんはにこりと笑う。
「かしこまりました。ドレスがホルターネックですので、首が見えるスタイルがよろしいかと思います」
「はい……」
 鏡には私と美容師さんだけが映っている。
 鏡越しに美容師さんの話を聞いては愛想笑いを返し頷く。
 こうやって人に決めてもらうのはなんて楽なんだろう。自分で選ぶ自由があり、複数の選択肢を提示されたにも関わらず、私は選べない。
 選べないのか選ばないのか。
 たった一文字の差だけどこの差は大きい。
 私に意思はあるのかな――。
 鏡に映る自分が、意志薄弱な人間に見えた。
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