光のもとでⅠ
「このストールのデザインは編み物部全員のアイディアです。よってデザイン料は発生いたしません」
 すると、サザナミくんが席を立ち、大量のプリントを手にして話し出す。
「ここに三学年女子生徒、三百六十人分の嘆願署名があります」
「ふむ……満場一致に持っていくつもりだね?」
 学園長がにやりと笑った。
 こちら側に背を向けているので、実際の表情はわからない。けれど、私の想像が正しければ桃華さんは今とてもきれいで隙のない笑顔を作っているのではないだろうか。
「簾条のことだからその先まで考えてるんでしょう? とっとと全部話しなさい」
 篠宮先生がぶっきらぼうに答えると、
「それではお言葉に甘えて」
 と、嬉しそうに話し出した。
「デザインに関しましては先に述べたとおり、生徒考案につきデザイン料は発生いたしません。工場は株式会社マリアージュが直営している工場での生産体制を口約束ですがいただいております。ストールの原価は安く抑えて三千円。これは最初から染めてある糸を使う場合です。もしも制服の色に合わせるために染色という工程が加わった場合は倍額の六千円になります。工場側の利益を計上すると、ストールの代金は八千円から一万円という数字が妥当かと思われます。マリアージュとの契約の際には多忙な学園長ではなく、高等部校長、もしくは学園規則委員長でも可能とうかがってきました」
 唖然とした。
 この一週間でそこまでの話を詰められるものなの?
 それ以前に、これは生徒の仕事なの……?
 議題を話し合うというよりは、学校側に提示して、それを遂行するために大人が介在するような、そんな気がしてならない。
< 904 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop