光のもとでⅠ
 確か、涼先生と一緒のときはカードキーは必要なかったはず……。
 けれど、御崎さんはエレベーターのボタンを押す前にカードキーを通していた。
 地上に着き、私が降りても御崎さんは降りなかった。振り返ると、
「私がお供できるのはこちらまでです。この先、レストランフロアにて会長がお待ちです」
 言うと、頭を深く下げられた。しばらくしても頭を上げようとはしないことから、私が立ち去らなくてはいけないことを悟る。
 しんと静まり返ったフロアに足を踏み出す。
 コツ、とヒールの音が鳴り、足裏に硬い感触が伝う。硬質な音と硬い床に緊張が増した。
 フロアに出ると、テーブルたちの向こう側――フロアの片隅に朗元さんは立っていた。私の撮った写真が飾られた壁の前に。
 初めて会ったときから変わることのない和装姿で、後ろで手を組みじっと写真を見ていた。
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