光のもとでⅠ
 鎖骨の窪みにひんやりとした感触が伝う。
「もう二度としないと約束しよう。その代わり、これを着けてもう一度会場へ戻ってほしい」
 会場で聞いたお母さんとお父さんの話。それから、唯兄が教えてくれた紫紺の意味。
 総合して考えるなら、私が朗元さんの――藤宮の会長の庇護下にあることを会場にいる人間に見せるためだろう。
「今度はわしにエスコートをさせてくれぬかの?」
 ――大丈夫。
 私は何度だってこの道を選ぶし、そのことを両親も納得している。ならば返事はひとつ。
「はい」

「その前に」と朗元さんはカップが置かれている席に着いた。
 冷めてしまったであろうコーヒーを口に含んだ朗元さんをじっと見ていて気づく。
 笑っているわけでもないのに音がする、と。
 ヒュー、とまるで空気が細い筒を通るときのような音が――。
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