光のもとでⅠ
 大きな手がドアを押さえてくれている。
 力を入れなくてよくなった途端、私は崩れるようにしてその場に座り込んだ。
 ここに座り込んでもどうにもならない。この人を困らせるだけ。
 そうは思うのに身体が動かない。
 ごめんなさい、と思いながらただただ涙を流していた。すると、辺りが急にざわつき始める。
 力を振り絞って顔を上げる。と、会場出口からこちらに向かって足早に歩いてくる人たちがいた。黒いスーツを着た人ふたりの後ろには秋斗さんと御崎さんがいた。
 私はそのままの状態で秋斗さんに手を伸ばす。けれど、座った状態で前傾姿勢になった身体を片腕で支えることはできず、その場に倒れた。
「翠葉ちゃんっ」
「お嬢様っ」
「あき……さ、ろ……ん……」
 たくさんのことを伝えたいわけではない。なのに、一言も、単語にすらならない。
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