光のもとでⅠ
 顔を拭いて、歯を磨いて――やることがない。
 手術前ということもあってご飯は食べなくていいし、何もすることがなくて時間が異様に長く感じた。
 目に見える場所には時計がない。けれど、秒針に刻まれる音が頭の中に鳴り響き、しだいに緊張が増していく。
 それを感じ取ったのか、お父さんとお母さんが仕事の話や私や蒼兄の小さい頃の話をしてくれていた。

 七時半になると蒼兄と唯兄がお見舞いに来てくれた。
 お見舞いというよりも、手術室へ行く前のお見送りに。
 唯兄の目が真っ赤でびっくりした。
「なんで俺の妹はふたりとも心臓が悪いのかなっ」
 言いながら袖で目を拭う。
 そんな唯兄の頭をくしゃくしゃ、としたのはお父さんと蒼兄。
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