光のもとでⅠ
 目が覚めると十階の病室にいた。
 聞こえるのは機械音や電子音ばかり。人の話し声は聞こえてこない。
 ほかに気になったことと言えば、喉の奥まで感じるひどい異物感。
「五時五十分覚醒、と。翠葉ちゃん、おはよう。手術は無事に終わったよ」
 楓先生が顔を覗き込み、優しく笑いかけてくれた。
「因みにね、今話せる状態じゃないから。人工呼吸器がついているから喋れないし、首を縦に振ったりすることも無理。OK?」
 そういえば、手術前にそんな説明があった気がする。
 私の中では数え切れない合併症と、内視鏡手術ができなかったときに残る傷跡の大きさがありとあらゆる説明を凌駕していて、ほかのことはすっかり忘れていた。それに、まだなんとなく頭がぼーっとしているような気がしなくもない。
 目をパチパチとさせると、楓先生は一歩後ろに下がり私を眺めた。そして指折り数え始める。
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