光のもとでⅠ
「翠はずるい。俺と秋兄をどちらも選ばないくせにどちらも手放さない。すぐ手に入りそうな場所にいるくせに、絶対に踏み込ませないし踏み出さない」
 ツカサが言ってることは正しい。
 私は、記憶を取り戻してからこちら、ふたりを失わないでいられるための行動しかとってこなかった。それで私が楽になるわけではないけれど、利益は私にだけ生じていた。
「ごめん……私だけ、私だけで……」
「それにも納得はいかないけど……。翠が得をしているなら、なんで翠は今泣いている?」
 気づけばパタパタ、と涙が手に降ってきた。
「泣いてることにくらい気づけよ」
 ルームウェアの袖で拭おうとしたらハンカチを押し付けられた。
 何度か見たことのある、縁取りが濃紺の青いハンカチ。
「……俺も秋兄も諦めは悪いほうだけど、精神衛生上よからぬことは基本排除する性格で」
 その先にどんな言葉が続くのか、と胃がキリキリ痛みだす。
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