光のもとでⅠ
 本当はさ、純粋に心配だったんだ。
 もし、変な男に遭遇したとして、御園生は周りに人がいるいないに関わらず声すらあげられないんじゃないかって……。
 男性恐怖症が全面に出てしまったら御園生は動けなくなる。紅葉祭でそれを目の当たりにしたから……。だから心配だったんだ。

 隣を歩く御園生を見ると、穏やかな表情は一変してひどく緊張した面持ちだった。
「御園生?」
「えっ? あ……なんだっけ?」
「いや、とくに何を話してたわけじゃないけど……どうした?」
 はじかれたように顔を上げた御園生は、また視線を落とした。
 唇に力が入っているのは寒さからではない気がした。
「何か」はあるのだろう。けど、それを御園生が俺に話すかはわからない。
 自分が踏み込めるものなのか、何かしら判断材料が欲しいところだけど、こういうとき、御園生は話すなら全部を話し、話さないのなら何も話さない。
 だから、出方を待つしかなかった。
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