光のもとでⅠ
 唯兄は細く長く息を吐き出すと、
「あとで昔話をしようかね」
 と、頭をポンポンと叩いてくれた。
 私はコクリと頷いた。
 その話がどんなものであるのか、私は大まかにわかっているにも関わらず。
 自分をずるい人間だな、と思いながら、もう一度頷いた。

 マンションに戻ってきて車を降りると、フロントでは見たことのない人が出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
 声をかけられ、知らない人というだけで緊張してしまった私は、咄嗟に「こんにちは」と返してしまった。
 唯兄が立ち止まり、
「変じゃない?」
「え?」
「おかえりなさいって言われたら?」
「あ……」
 自分も立ち止まり、フロントを振り返る。
「ただいま、戻りました……?」
 口にすると、やけに身長の高い人が肩を震わせ始めた。
 でも、この場にはもっとひどい人がいて、その人は私が振り返って言葉を口にした瞬間に盛大に吹きだしたのだ。
 それはほかの誰でもない唯兄。
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