光のもとでⅠ
 唯兄を見てから、再びフロントの人を見ると、もう一度「おかえりなさいませ」と腰を折られた。
 けれど、その人の体はプルプル、という具合に震えていて、どう見ても笑いを堪えているようにしか見えなかった。
 そこに車のキーをチャリンチャリン音をさせて戻ってきたのは高崎さん。
「真下さん、何やってるんですか?」
 高崎さんはフロントに声をかけ、私たちに視線を向ける。
「何かあった?」
 高崎さんに優しく訊かれ、今あったことを話すと、隣の唯兄が座り込むのと同時に、フロントの人の姿も見えなくなった。
 フロントの中からは押し殺したような笑い声の気配……。
 どうしよう。これは立ち去ったほうがいいのかな。
「普段は鉄仮面の真下さんがこんなに笑うとは……。翠葉ちゃん、すごいね? で、真下さーん?」
 高崎さんはフロントの外側から内側を覗き込む。
「彼女、俺の親友の妹なんで紹介します。でもって、隠れて笑わなくても大丈夫ですよ。今日、崎本さんなら夕方まで戻りませんから」
 すると、高崎さんと同じくらいの身長の人が立ち上がった。
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