光のもとでⅠ
「……ごめん、上手に話せない――」
 さぁ、あんちゃんどうします? うちのお姫様はかなり手強いですぜ?
 すると、トン、と音を立ててドアが閉まった。
 やば……俺、出て行くタイミング逃がしたっぽい?
「上手になんて話さなくていいよ。聞く時間がないわけじゃないし」
 仕方なく、ドア越しにふたりの会話を盗み聞く。ここまできて退散とかあり得ない。
「あの、ね……泣きたくないの。自分が弱いせいで……泣きたく、ないの」
 絞り出されたようなリィの声に目を瞑る。
 もう、泣いてるじゃん……。心の中でボロッボロに泣いてるじゃん。
 あんちゃん、うまく訊きだしなよ。今なら俺、除け者でもいいよ。
 そう思うのと同時、あんちゃんがランニングを休むと言うと、リィが声を荒げた。
「それもやなのっ」
「翠葉?」
「自分のせいで人の予定や何かを狂わせるのもいや……。あと、ここに留まったままなのもいや」
 いやいや尽くし、か……。これは訊き出すのも宥めすかすのも難しいかな。
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