光のもとでⅠ
 洗顔を済ませると、玄関ポーチで軽いストレッチを始める。
 十キロ三十分が無理ではないにしろ、十キロ走ると翠葉たちとの待ち合わせ場所を通り越してしまう。
「……九キロ弱ってところかな?」
 俺は家を出ると、腕時計のストップウォッチをスタートさせた。
 運動公園内のジョギングコースに出れば百メートルごとに距離表示ポストがある。その表示とストップウォッチを見ながら一分三キロのペースをキープ。
 あとは自分の呼気を感じながら、前へ前へとひたすら走るのみ。
 走っているときは頭を空っぽにすることができた。勉強のこと、進路のこと、学校のこと、友人関係のこと、家族のこと。何も考えずフリーになれる時間。
 もともとは体力づくりであったり、脚力を鍛えるために始めたランニングは、いつしか自分にはなくてはならないものになっていた。
 毎朝、頭や心をリセットするための――俺なりの儀式。
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