光のもとでⅠ
「行きは秋兄に譲る」
「わかった。じゃ、帰りは司で」
「え? あのっ……」
「異論反論は受け付けないから」
 司の一言に釘を刺され、彼女は再度口を噤む。
 そして、司はレストランへ向かって歩き始めた。
 翠葉ちゃんはその後ろ姿をじっと見つめている。
 どうしてかな……。君はこんなにも素直で、こんなにも司を想っているのにね。
 その気持ちにブレーキなんてかけなくていいのに。もっと、心を自由にしてあげていいんだよ。
 しだいに泣きそうな顔になるから、意識をこっちに戻してもらうことにした。
 今日はこれだけじゃないから……。まだ、一日は始まったばかりなんだ。
「さて、そろそろ意識をこっちに戻してもらえる?」
 顔を覗き込むと、彼女ははっとした顔をした。そんな彼女を回廊の中央へ誘導する。
「まずはガラスに映る自分の姿を見て? あ、正面じゃなくて体の側面が見えるように立とうか」
 ガラスに映る彼女を彼女本人に意識してもらう。そこにはいつもの彼女とは違う姿勢が映っていた。
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