光のもとでⅠ
蔵元さんは唯兄の身元引き受け人か何かなのだろう。
悩むことなくその番号へダイヤルした。
どうしてか電話をかけなくてはいけない気がしたのだ。
コール音が鳴るとすぐに、「蔵元です」と落ち着いた声が聞こえてきた。
「あの、翠葉です。今、お時間大丈夫ですか?」
『はい、大丈夫ですよ。いかがなさいましたか?』
「……とくに用があるわけではないんです。でも、がんばります、とだけ伝えたくて……」
『そうでしたか……。正直、重いでしょう?』
聞こえてくる声には笑いが混じる。けれども、とても切ない声に聞こえた。
重いというなら重い。けれども、それ以上に怖い……。
「重い、よりは、怖い、です」
『そうですよね。こんな役は私みたいな人間が引き受ければ良いのですが、湊様が頑なに翠葉お嬢様から、と譲ってくださらなくて……。私、あの湊様相手に少々ケンカ口調になってしまいました』
なんとなく、私に気を遣った感じの喋り方。
『ですが、すべてを翠葉お嬢様が背負われることはないのですよ。後ろには私が控えております』
「……はい。でも、がんばります。何ができるかわからないけれど、がんばります……」
『わかりました。よろしくお願いします』
「お仕事中にすみません。ただ、それだけお伝えしたくて……」
『ありがとうございます。唯を、よろしくお願いいたします』
その数秒後に携帯を切った。
最後の言葉、「唯を、お願いします」のとき、十三頭身くらいありそうな体躯を腰からきっちりと折り、頭を下げている蔵元さんが想像できた。
悩むことなくその番号へダイヤルした。
どうしてか電話をかけなくてはいけない気がしたのだ。
コール音が鳴るとすぐに、「蔵元です」と落ち着いた声が聞こえてきた。
「あの、翠葉です。今、お時間大丈夫ですか?」
『はい、大丈夫ですよ。いかがなさいましたか?』
「……とくに用があるわけではないんです。でも、がんばります、とだけ伝えたくて……」
『そうでしたか……。正直、重いでしょう?』
聞こえてくる声には笑いが混じる。けれども、とても切ない声に聞こえた。
重いというなら重い。けれども、それ以上に怖い……。
「重い、よりは、怖い、です」
『そうですよね。こんな役は私みたいな人間が引き受ければ良いのですが、湊様が頑なに翠葉お嬢様から、と譲ってくださらなくて……。私、あの湊様相手に少々ケンカ口調になってしまいました』
なんとなく、私に気を遣った感じの喋り方。
『ですが、すべてを翠葉お嬢様が背負われることはないのですよ。後ろには私が控えております』
「……はい。でも、がんばります。何ができるかわからないけれど、がんばります……」
『わかりました。よろしくお願いします』
「お仕事中にすみません。ただ、それだけお伝えしたくて……」
『ありがとうございます。唯を、よろしくお願いいたします』
その数秒後に携帯を切った。
最後の言葉、「唯を、お願いします」のとき、十三頭身くらいありそうな体躯を腰からきっちりと折り、頭を下げている蔵元さんが想像できた。