光のもとでⅠ
 人が笑う中、三歩で翠の真正面に進み出る。
「とりあえず、翠葉ちゃんは座ったらどうかな?」
「あ、はい……」
「どうぞこちらに、お姫様」
 秋兄は自然な動作で翠の右手を取り、目の高さまで持ち上げると、
「冷たい手だね」
 翠の手を自分の頬に沿えた。
 やりすぎだろ……。
 そう思った瞬間、
「はーい、秋兄ストーップ。我らが姫君、翠葉姫はこっちで預かりましょー?」
 海斗に奪還される。
 ほっとしたのは束の間。海斗に引き寄せられた翠葉は妙に安心した顔をしていて、それが面白くなかった。
「ふーん……。これはちょっと面白くないかな。けど、静さんに強制退場を宣告されるのはもっと面白くないからね。今は引く」
 言いながら、秋兄は身を引いてテーブルセットまで戻ってきた。
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