光のもとでⅠ
 リビングのソファを見れば栞さんがぼーっとしていた。
 まるで、今の電話にも気づいていないようだ。
 そんな栞さんを横目にピアノを片付け側に寄った。
「栞さん……?」
「えっ? あ、ごめんね? 何? どうかした?」
「いえ。あの、私、少し休んできます」
「そうね。夕飯には起こすわ」
「はい、お願いします。……あ、その前にお風呂入っちゃおうかな」
「どっちでも大丈夫よ。さっぱりしてから寝るのもいいかもね」
 そんな会話をしてから部屋に戻った。
 なんだか今のタイミングを逃がしたらお風呂に入るのを逃がしてしまう気がしたのだ。
 お風呂に入る準備をしてすぐにバスルームへ向かう。
 洋服を着脱するとき、ふいに首の傷が気になる。
 けれど、極力気にしないように努めていた。それでも、お風呂に入るときはどうしても目にすることになり、バスルームにある大きな鏡を恨めしく思う。
 美鳥さんから鏡を渡されて目にしたときは、単なる内出血だった。
 そのあと、掻き毟って擦過傷になってからは、傷を確認することはしていない。
 どうしても見ることができなかった。
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