光のもとでⅠ
 悲愴な面持ちで涙を零す彼女に、
「少し落ち着きなさい」
 自分のスーツをかけて包み込む。
「翠葉ちゃん、場所を移動する。ちゃんと状況を説明するからおとなしく言うことを聞いてほしい」
 少し手の力が緩んだところで、彼女を抱え上げた。
 呼吸の荒さにひやりとする。一体どれほど走ったのだろうかと。
 レストランからだとすると、二百メートル近くは走ったんじゃないだろうか。
 彼女の手が冷たいのはいつものことだけど、これは別物のような気がした。
 階段を下りるときに伝う振動が彼女の負担にならないよう、できる限りのホールドを試みる。
「翠葉ちゃんが地下回廊を走っているとき、モニタリングしてる警備員から連絡が入った。君がカメラに向かって話した情報はすべて伝わっている。ついさっき、紫さんと栞ちゃんが別ルートでレストランに向かったから大丈夫。安心して」
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