光のもとでⅠ
 先輩は、手を差し出すとき少し緊張した顔になる。
 今まで、何があっても司先輩がダメだったことはないのに。
 腰のあたりからマッサージが始まり、しだいに背中へと移り、最後に頭をマッサージしてくれる。
「先輩、蒼兄が病院へ行ったなんて話は聞いてないですよね?」
「聞いてない。なんで? 具合悪そうには見えなかったけど?」
「そうですよね……。ならいいんです」
「……なんで、って訊いたんだけど」
「え? あぁ……なんとなく蒼兄から薬品っぽい香りがしたような気がしたから。でも、全然元気そうだし、怪我をしているようにも見えなかったから気のせいかな、とは思っていたんですけど」
「そう、気のせいじゃない? それより、授業は?」
「大丈夫です。みんなが取ってくれてたノートと、先輩のご指導の賜物かな?」
 授業でわからなかったところを訊いたり、桜林館の設備に驚いたこと。
 そんな話をしているうちにマッサージは終わった。
 声がかからないところをみると、まだご飯までは時間があるのだろう。
「先輩、手っ」
 起き上がってすぐに先輩の腕を掴んだ。
「……必死すぎ」
「……だって、引き止めなかったら先輩すぐに離脱しちゃいそうなんだもの」
「それはどうかな」
 言いながら、先輩はおとなしく手を差し出してくれた。
< 960 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop