光のもとでⅠ
 約束の時間に病院を訪れるとロビーで司と出くわした。
「司もじーさんに呼ばれたの?」
「違う。翠に会いに来た」
「ふーん。がんばってますね?」
「それなりに。秋兄はじーさんの迎え?」
「そう、早朝に電話で起こされて呼びつけられたかわいそうな孫代表」
「俺も顔だけは出す」
「喜ぶんじゃない?」
「どうだか……」
 エレベーターに乗ると、狭い空間に生暖かい空気が滞留していた。
 空気の動く余地が限られている辺りが、今の俺たちの状況と少しかぶる。
「翠葉ちゃんの補習、俺も講師に立候補したから」
「……そう。別にいいんじゃない? 翠は困るんだろうけど」
「ま、それが目的でもあるしね」
 言い終わると同時に、ポーン、と十階に着いたことを知らせる音が鳴り響く。
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