光のもとでⅠ
 いつか桜香苑を歩きながら話したことを言われているのだろう。それに、それを反故にするつもりもなかった。
「翠」
 呼びかけてもこちらを向く気配はない。
「翠」
 どうしてもこっちを向いてほしくて、力任せにこちらを向かせた。でも、顔は背けられたまま。
「いい加減こっちを向け」
 翠は恐る恐る、といった感じでようやく俺のほうを見た。視線は合わないままだけど。
「悪い。嘘はつく……というか、ついた」
 翠の目に涙が浮かぶ。それはしだいに増していき、今にも零れそうだった。
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