光のもとでⅠ
「泣くな……」
 泣いている顔を見ていられなくて抱き寄せる。と、翠の腕が背に回された。
 今まで何度か翠を抱きしめたことはある。でも、こうして背に腕を回されたことがあっただろうか……。
 縋られているのとは違う。一方的に抱きしめているのとも違う。双方……互いが相手を抱きしめていた。
 さらには、翠の手に力がこめられるから、求められている気がしてしまう。
 少し離れると、「どうして」というような目で俺を見てきた。まだ、涙に濡れる目で。
「そんなに泣くな……」
 翠の腕も目も、何もかもが俺を求めているように思えて、俺は気づけば翠に口づけていた。
「くちびる……つめたい」
 片言の日本語で言われる。
 だから、「翠も」と言葉を返した。
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