光のもとでⅠ
 普段だったら母さんが話の舵を取るのに、ここに来てからは父さんしか話していない。
 母さんは、父さんの隣でずっと小刻みに震えていた。
 無理もない――俺だって自分で自分の手を握っていないと震えてしまうんだ。
「しばらくはICUでの監視下に置きます。症状がある程度落ち着けば一般病棟に移れますが、今回は回復するまでに少し時間がかかるかもしれません。根本的な治療はできませんが、症状が落ち着くまでは様子を見たほうがいいでしょう。一過性である可能性が高いですが、もし不整脈が頻発するようでしたら、治療に踏み切ろうと思います」
「具体的には?」
 父さんが治療法を訊くと、
「カテーテルアブレーション法といって、カテーテルの先から高周波電流を流して問題のある生体組織を小さく焼き切る手術です。開胸手術ではないので、翠葉ちゃんにかかる負担も少ないですし傷も小さくて済みます」
「そうですか……。翠葉を、娘をよろしくお願いします」
 父さんと母さんが揃って頭を下げた。それに習って俺も頭を下げた。
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