光のもとでⅠ
 幸い、どちらも個室で料金は変わらないということだったし、より近くに緑がある病室に惹かれたのは確か。けれど、病室から中庭を見下ろし思うことはひとつ。
 緑は見下ろすのではなく、見上げるほうが好きだな……と思った。
 今朝も同じことを思いながら、昨日と何も変わらない中庭を眺めている。窓から見える景色がグレーのグラウンドだろうが、緑のある中庭だろうが、然して何も変わらなかった。
 見下ろす景色であり、眺めるだけのものであり、四角い枠から見えるものに変わりはない。
「誕生日だからお許し出るかな?」
 できれば木の下から空を見上げたい。自分の視線でものを見たい。
 リノリウムの床材も、緩く波打つカーテンも、病室にあるものは全部見飽きた。屋内から外に出たかった。
 車椅子で移動するのではなく、自分の足で地面を歩きたかった。それが人工的に舗装されたコンクリートの上でも、仮初めの屋外である中庭だとしても――。
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