光のもとでⅠ
 ただ、気づきたくなかっただけ。ひとり「時」が止まってしまったような自分を認めたくなかった。だから、見ない振りをしていた。
 卓上カレンダーを見てはふたつの気持ちが葛藤する。
 何もせずに一日二日、気づけばもう日単位ではなく月単位で病院にいること。それを正視できずにカレンダーを見ることをやめれば、何の変哲もない毎日に「時」が止まったような錯覚に陥る。カレンダーを見ても見なくても、どっちにしてもつらかった。
「翠葉ちゃん、夕焼けがきれいだよ」
 楓先生の言葉に顔を上げると、木の向こうに薄いピンク色の空が見えた。
 病院の中庭から見える空は、建物に囲まれてぽっかりと開いた穴のよう。涙がレンズの役割果たして、魚眼レンズを覗いてるみたい。
「き、れい」
 歪んで映った空はちゃんとピンクに見えた。緑の葉っぱが夕陽を浴びてオレンジ色に光っている。木も、陽が当たっているところと当たっていないところでは色が違う。
 影とウッドデッキ、タイルと芝生。周りにあるものすべてに「色」を見ることができた。
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